伊豆美神社の境内にまつるお諏訪様に、ナスの初なりを供えるならわしのある家もあって、いまでも、初ナスを三個、供えにいくそうです(東和泉)。
 初ナスを「お諏訪様に」と、ナンテンにつる人もありました(駒井)。「その年、初めてとれたナスの小ぶりなものを、白ナルテンの枝につるしておくと、腹の病にかからないって。糸でしばって、お諏訪様にってね。ナルテンの木にぶら下げておくんですよ。いまも(昭和五十年現在)やってます。おばあさん(姑)がやってられましたのでね。糸の色は、きまってませんけど」(明治38年生 女性)
 同じ駒井で、次のようなことも聞きました。「ナスの初なりをトンボグチ(主屋の入口)に糸で下げておくと、おできができないって」(明治38年生 男性)。「あせもよけになるって、ナスのお初を糸で縁側につるした。子ども四人を育てたとき、生まれて初めての夏にやりましたよ」(昭和3年生 女性)
 三十年ほど前、上覚東(西野川)と下小足立(東野川)で、トンボグチにつるされた、黒く干からびたナスを見かけました。上覚東のお宅では、「悪い病気にかからないため」と聞き、下小足立のお宅では、次のように聞いています。「ナスの初なりをとってきて、家のなかに入らないうちに、そのナスをトンボグチに木綿糸でつるす。厄病、悪魔を払うというんですね。翌年まで、そのままにしておくんですよ」(明治42年生 男性)。ことしの秋の彼岸に両家を訪ねて、下小足立のお宅では、その後もずっとこのならわしを続け、改築後は裏の入口に、やはり赤い糸で初ナスをつるしているのを知りました。
 ナスの収穫は、初ナスにはじまり、ハナッチボリ(ハナチボリ・ハナシボリ)で終わります。霜の降りる前までに畑のナスの木をこいでしまわなければなりません。ナスの種類や陽気、家によっても違いますが、以前は十月末から十一月初めまでには、片づける仕事でした。こいだナスの木には、花が終わったばかりの小さなナスがついています。親指のあたまがちょっと見えるくらいの小ちゃなナスです。小指から親指のあたまくらいの、ひとくちナスです。これをハナチボリ、ハナッチボリなどとよんで、ナスの最後の最後の収穫、貴重品でした。木をこいで、その小さな実をとるのですが、ナス千本に樽一本(一斗だる一つ)といわれるくらい、とれる量は少ないので、珍重されていたようです。塩漬け、糠漬けにもしましたが、実くずれがしないので、金山寺みそのように、なめみそに入れるのがよろこばれました。
 ハナッチボリということばは、ナスにかぎらず、キュウリなど畑の成りものや柿などにも、さまざまな使われ方をしています。
中島惠子(狛江市文化財専門委員)