年の暮れ

 師走の声を聞くと、やがて年の瀬が迫ってくる。冬至の日には風呂にユズを入れ、かぼちゃを食べて健康と長寿を祈る。
 この頃には井戸替えも行われている。近所同士3、4軒が集まって一人が井戸に入り、底にたまった砂をすくい上げておけに入れ、上にいる数人が綱で引き上げる。一軒終われば次の家へ。砂をさらった井戸には、また清らかな水がこんこんと湧く。
 間もなく大掃除だ。畳を上げ、建具や家具も庭先に出して隅々まで掃除する。天井や(はり)についたすす払いには庭にある竹の枝を束ねて道具を作り、竹の葉で丹念に払い落とした。座敷以外は天井板は張ってないし、家の中でまきや麦わらなどを燃やすからすすで真っ黒になる。
 餅つきは通常22日から28日の間につく。29日は「クンチモチ」といって二重に苦しむから、つかないという習わしがある。31日もお供えなどが一夜飾りになるからつかなかった。
 餅は正月にお雑煮として食べる伸餅(のしもち)、神様に供える鏡餅。伸餅は贈答用として、また、保存食になるので大量につく。そのため親戚や近所の人が集まって互いに回りながらつきあった。
 餅つきの日が近づくと前日にもち米を洗い、一日中水に漬けておく。当日は朝早く起きて、蒸して、ついて、はじめは小さい(きね)3本を3人で使って蒸したもち米をこねる。その後大きな臼で一人がつき、一人が裏返す。この時は2人の呼吸が合わないと危険なので熟練者が担当する。つきあがった餅は、伸したり、丸めたり、ジダイモチ(カラミモチ、あんこモチ、きな粉モチなど)にして餅つきの間や終わった後みんなで食べたり、手伝ってくれた人のお土産にした。また、水餅にして常に水を取り替えていれば田植え頃まで保存することができた。
 大切な餅だから歳暮として親戚や嫁の実家、仲人の家などに贈る。仲人には餅の他、新巻き鮭も付け加えた。新巻き鮭は冷蔵庫がなくても夏頃まで保存することができた。
 30日には家にある稲わらで注連縄(しめなわ)や輪飾りを作る。注連縄は神棚や台所の荒神様、玄関先に張り渡し、輪飾りは玄関、納屋、蔵、井戸などに飾った。これらも31日に飾るのはよくないといってやらなかった。
 大みそかには、おせち料理を作って重箱に入れる。中にはミガキニシン、紅白のかまぼこ、伊達巻、数の子、なます、黒豆、昆布巻き、きんとん、きんぴら、野菜の煮しめなどが入れてあった。そして小麦粉で作ったみそかそばを食べる。
 大みそかの神社では、夜の10時ごろになると奉賛会(ほうさんかい)の役員が来て扉を開けたり、参拝者に振る舞う甘酒を煮、神酒を用意するなど参拝者を迎える準備をして除夜の鐘が鳴るのを待った。

 井上 孝
(狛江市文化財専門委員)