こまえロケ日和~撮影を支える人々~

10年間で900本を担当
ロケハン同行、許可申請、立ち合い……

 2024年4月1日。NHK連続テレビ小説「虎に翼」の第1回放送が始まると、清水寿美代さん(56)は自宅のテレビ画面にくぎ付けになった。
 ドラマは、日本初の女性弁護士や裁判官を務めた三淵嘉子さんがモデル。冒頭の舞台は、戦後間もない1946年秋の多摩川の河原の設定。狛江市で2023年11月に撮影された。清水さんはそのロケに立ち会っていたのだ。ロケ誘致・支援にあたる「デイ・ナイト株式会社」(本社・千代田区)の社員で、市観光協会から運営を委託され、狛江ロケーションサービスの一員として従事している。
 冒頭シーン。渡し舟の船着場がある河原で遊ぶ子どもたちに続き、モンペ姿のヒロインが登場。公布されたばかりの日本国憲法が載った新聞を食い入るように読み、再び法律の世界へ戻る決意をするドラマの重要な場面だ。
 画面には「撮影協力」として「狛江市」のクレジットも。清水さんは「朝ドラで全国に狛江をPRできてよかった」と振り返る。
 清水さんの仕事は、撮影場所を探すロケーション・ハンティング(ロケハン)や、技術スタッフを集めたメーンロケハンへの同行、公共施設や私有地の撮影許可申請に撮影の立ち合いなどと幅広い。
 NHKの朝ドラ制作スタッフから問い合わせがあったのは2023年7月。「昭和の時代の船着場を作る場所はないか」。すぐ、狛江水辺の楽校(がっこう)周辺でのロケハンに同行する一方、国土交通省多摩出張所(稲城市)をNHKの担当者と訪問。国交省には河川の「一時使用届」を、狛江市には楽校の「使用届」をメールで送り許可を受けた。
 撮影前、関係車両を止める場所の草を刈る業者が見つからないため、制作スタッフと清水さんが、草刈り機で約2時間かけて草を刈り、トラックに積んだことも。「予期しない裏方仕事もけっこうあります」
 撮影当日は、朝5時から船着場を作る作業に立ち会い、撮影が終わったのは9時間後だった。
 清水さんは、狛江ロケーションサービスが発足した2015年から900本以上の作品に関わってきた。「様々な段取りをして最後の撮影が無事に終わった時の達成感が、この仕事の醍醐味です」
佐藤清孝(元新聞記者)
◇狛江ロケーションサービスが設立されて10年余り。ロケを支える人たちの姿を通して都内有数の「ロケの聖地」になった狛江の魅力を探る。

私のロケ地 ベスト1

清水寿美代 さん
多摩川の河川敷

景観がすごくいい。多摩水道橋や小田急線の電車も走っている。その間にある河川敷は刑事ドラマの事件シーンの撮影でよく使われる。国交省や狛江市の許可があればパトカーや鑑識車も入れられるのでロケ誘致で重宝している。

ある日のロケ立ち合い  狛江市役所議長室→官房長官室へ変身

 8月16日、狛江市役所で連続テレビドラマ「大追跡~警視庁SSBC強行犯係~」(テレビ朝日系列、7月~9月放映)のロケがあった。
 議長室を内閣官房長官室に見立てて撮影。清水寿美代さんは朝7時半に一番乗り。美術スタッフが、机やソファーをより重厚感のあるものに手際よく取り換える様子や、夕方まで続いた撮影を見守った。