トラコーマや、瞼(まぶた)の裏に粟粒のようなボツボツの脂肪胞ができたとき、新しいトウスミ(灯芯)でこする。和泉の松本イチさん(明治三十六年生)のお母さんは、この療法を上手にやれるので知られていた。トラフグともいうこの眼病で、医者にかかっても治らない人が、人づてに話を聞いてやって来たという。ひとさまのだいじな目だからと言って断っても、どうせ治らないから、どうなってもいいんだからと無理に頼まれて、蚕などで忙しいときにも、いやな顔ひとつせずに人助けたと言ってやっていた。
 この療法は、トウスミを二つに折ってよじり、その先で瞼の裏にできた患部をこすると、悪い血が驚くほど出て、白い根のようなものが取れ、うそのように治るものであった。トウスミは神棚などに上げるお灯明(とうみょう)の応で、細いイグサの白い髄などを用いた。
 松本さんは、調布の小島町の方に住んでいた府中警察の部長さんに呼ばれて、素人療法をとがめだてされるのかと思い、どきどきしながら行ったら、奥さんが目が悪いからやってくれ、ということで治療したところすっかり治ったということもあった。
 松本さんは、目ぼしの治療もやった。目に星ができると、背中などに赤いポツポツが出る。それに穴あき銭を当てて、油で焼くとパチンパチンとはねて、目ぼしの方も不思議と治ったものだった。穴あき銭を当てるのは、ポツポツのところだけを焼くためである。
 このような目ぼしの治療の秘術は、調布のある家にも伝わっていて、それは旅人を泊めたお礼に教えてもらったというが、松本さんの場合は、目ぼしやトラフグの治療にしても、いつ頃、だれから教わったものかはわかっていない。ただ、目の悪いヘビを竜神様として祀ったことに、かかわりがあるのかもしれないなどとも思われる。