音、和泉の松本公臣さんの家には、近所の人からも「王様、王様」と呼ばれるほど大きな、年を経た目の悪いヘビがいた。
 片方の目しか見えないヘビは、よく井戸のふちの井桁(いげた)のところにおられて、しょうがないといわれていたが、あるとき子どもに追われて、サーッと井戸の中へ落ちてしまった。ヘビが落ちたので、竹に縄をからげて井戸の中に下げておいたけれども、這い上がった様子がない。落ちて出られないので底に埋まってしまったらしい。すぐ、そばに井戸をこしらえ、ヘビが落ちた井戸を古井戸にして、何日かたってから近所の人にまわりで見ていてもらい、松本さんの家の伝四郎じいさんが古井戸の中に降り、ヘビの白い骨を拾い上げた。
 その骨を埋(い)け、小さなお宮を建て、竜神様とかリュウコン様とか呼ぶようになった。初めは井戸のそばに、伝四郎じいさんが素人作りの小さなお宮をこしらえたが、後で裏の方に移した。昔のことなので、何か「みる人」にみてもらったら、こうしたらと言われたのではないかということである。お宮には、今でも毎朝、お米と水を持っていってお参りする。ときどき卵も上げている。リュウコン様に朝お参りしないと気になって仕方がないという。
 みる人は四谷の方にいた人らしい。松本さんの親戚で新橋の方にいる人が、何か身辺に変事があったので、みる人にうかがってみたところ、ヘビの骨をちゃんと祀(まつ)った方がいいといわれた。それで、その親戚の人が、本当にそんなことがあったのかと、伝四郎じいさんの姉に聞いてきたので、竜神様として祀ることになったという。不思議なことであった。
 狛江には、松本さんの家のほかにも、井戸のところに大きなヘビがいたので、屋敷神様として祀ったとか、白ヘビを守り神様にしている家なども、何軒かあるようだ。