(1)河童のホオズキ多摩川には、河童がいたってな。昔はな、水浴びに行くときには、「河童に尻ご玉ぬかれねえように気い付けろ」なんて、親たちに言われたもんだいね。特に、お盆のうちは水浴びに行くといげねえって。
 あるとき、河童がホオズキに化けてね、川のふちに、そのホオズキが落っこってたって。それぇ拾おうとした女の子が、川に引きずり込まれて、はらわた食われちまったとよ。(和泉:飯田彦太郎 明治19年生)
  


(2)仏さまのご飯と河童
 
仏さま(仏壇)に上げたもの、ご飯でも何でもいいって、何でも食べてから川へ行けば、河童にねらわれないって。河童が嫌うのでやられないそうですよ。それは、よく年寄りが言ってましたね。(岩戸:石倉ツル 明治38年生)

(3)川流れとニワトリ
 昔は川流れが時々あって、川底に沈んだ水死人を捜すのに苦労したものだった。なかなか見つからないときには、ニワトリのメスットリを舟に乗せたり、戸板なんかに乗せて川に浮かべて流す。死人の沈んでいる場所の上に来ると、ものに驚いたようにコケッコッコ、コケッコッコと鳴くんですよ。あれは、奇態によく当たったと、年寄りも言っていた。わたしも、実際、見ましたよ。(和泉:本橋兼吉 明治24年生)

(4)小豆ばばあ
 
猪方の火の見やぐらの辺りは、昔は、うっそうと茂ったボサヤブで、晩方なんか一人で通るのはおっかねえような、さみしいとこだったよ。お稲荷さんはあるしね。あすこを通ると、ちょうど小豆を篩(ふるい)でふるうような、ガラガラガラザーザーッて音がするってね、何とも気味(きび)が悪い。小豆ばばあって化け物がすんでいるから、そんな音がするんだって。(猪方:小川廣作 大正13年生)