昔、日照りが続いたときに、泉龍寺の池の辺りで、良弁とかいう偉いお坊さんが雨乞いの行(ぎょう)をしていたんだって。そうしたところが、黒雲が出てきて、たちまち空をおおい、あの池のところから竜巻(たつまき)が起こって、一匹の竜が舞い上がったというんだ。そうしてね、たいへんなおしめりがあったらしいんだね。ところがね、その舞い上がった竜が、頭と胴体としっぽの、三つにちぎれて落っこちた。胴としっぼはどこへ落ちたか知らないけれど、頭の落ちたとこが、「りゅうごじっぱら」だって。
 この言い伝えは、和泉の荒井熊治さん(明治四十三年生)が年寄りから聞いた話である。この話の中で竜の頭が落ちたとされる原は、じゅごじっぱら、りゅうとうじっぱらなどとも呼ばれ、今の狛江一中の付近から、覚東の旧小字(こあざ)三島に寄った辺りだという。ここには、龍光寺(あるいは龍興寺)という寺がいつの頃かあって、「じゅごじっぱら」などの名も、それによるものらしい。龍光寺原の訛った呼び名である。
 和泉の地名のもとになった泉龍寺の池は、この雨乞いのときに湧き出た泉といわれ、一説に、寺の名もこのような伝説によるという。泉龍寺の菅原住職は、寺と竜とのかかわりを次のように伝えている。
 おばあちゃんが、よく聞かせてくれたのですけどね、昔、なんでも、雨乞いをしたとき、池から竜が舞いのぼって、ばらばらになり、四つに分かれて、かけらが落ちた。いちばん大きいかけらの落ちたところに泉龍寺、それから「じごじっぱら」に龍光寺、それから調布の金子には金龍寺が建てられた。もう一つのかけらは、どこに落ちたのかよくわからないんだけど、やっぱり竜の字のつく寺が建てられたというんですね。
 竜(あるいは蛇)が、いくつかに切れて落ちたところに、竜の字の入った名の寺が建てられたという伝説は、平安時代末の『今昔物語集』にもあり、また関東地方では、千葉県印旛沼地方に雨乞いと結び付いた話がみられ、神奈川県相模原市にも大蛇退治の話として伝えられている。