泉龍寺の耳切り地蔵
 和泉の泉龍寺は、各地を巡行した子育地蔵を祀(まつ)る寺として知られ、境内にも十体ほどの地蔵尊がある。山門を入って鐘楼の左手に並ぶ地蔵尊の一つは耳切り地蔵と呼ばれ、現存する狛江のお地蔵さんの中でもっとも古いもので、明暦三年(一六五七)の造立。
 この地蔵は、もとは寺の山門近くの辻に立っていた。あるとき、辻の辺りで追いはぎにあって、逃げる拍子に片耳を斬られた人がいた。ところが、斬られたと思ったのに、気がついてみると自分の耳は無事で、かたわらの地蔵の耳に刀傷があった。耳切り地蔵と呼ばれる由来である。このように傷を身に引き受けてくれた身代わり伝説から、危難を救ってくれるお地蔵さんとして信心されてきた。
 また一説に、酒好きの道楽者が、遊び場所の女の取りあいで耳を斬られ、かわいそうだというので造った地蔵だという。耳を斬られたところから、特に耳の病にご利益があるともいっていた。「子どもの耳だれやカラ耳のときなど、心願かけると奇態に治ったものですよ」という人もある。お礼には、穴あき石とひとふしの竹筒に酒を入れて供えた。

 慶岸寺の塩地蔵
 岩戸の慶岸寺の境内には、塩地蔵と呼ばれる地蔵尊がある。子育てや安産の守り仏として遠方からお参りにくる人が、かつては見られたという。お礼に塩を供えるので、塩の山が見られた。もとは世田谷通りの二の橋近く、稲毛屋の西の辺りにあった。

 駒井の北向き地蔵
 駒井の登戸道(猪駒通り)の四つ辻の一角には北向きに安置された地蔵尊が祀られ、高橋さんの先祖と秋元さんの先祖が西国三十三番札所を歩いた記念にこしらえたものだという。台石に見える願主の名には、この二人のほかに「念仏御詠歌講中」の名も見える。
 北向き地蔵は珍しいので、昔から霊験あらたかとされ、お産や子どものことをお願いすると、よく聞いてくださるといわれ、特に夜泣きには不思議に効くといって、随分遠くの人もお参りにきたそうだ。